公開シンポジウム


公開シンポジウム「景観をめぐる民俗と歴史」

滋賀県立大学  交流センターホールにて

2011101日(土)13:0016:30



『景観保全』という課題 ―文化財保護制度を中心に―

才津祐美子 (長崎大学)

景観を凌駕する経験―『村の日記』から」

古川 彰 (関西学院大学)

『京都らしさ』と景観の近代」

高木博志 (京都大学人文科学研究所)



(コメンテーター)

今里悟之 (大阪教育大学)  川村清志 (札幌大学)



(コーディネーター)

市川秀之 (滋賀県立大学)







シンポジウム「景観をめぐる民俗と歴史」 開催趣旨



琵琶湖畔で開催される本年会では「環境・景観」を総合的なテーマとし、一般発表・グループ発表においても可能なかぎり「環境・景観」を意識した発表をお願いしてきた。

日本民俗学では1990年代以降、環境に関する研究が蓄積されてきている。研究の中心は人が自然をどう利用してきたのかという点にあり、環境とはいえ自然環境がその中心的な研究テーマであった。しかしながらこれまで民俗学が明らかにしてきた通り、環境は人と自然、あるいは人と人の相互作用の結果として存在しており、今後はより広い視野で環境をとらえていく必要があるだろう。

今回の公開シンポジウムでは「環境」を幅広く捉えるための視座として「景観」に注目したい。もとより民俗学の立場からの景観とは、人が生活のなかで自然とかかわりあいながら構築してきたものを意味している。人と人の関わり合いの中で形成されてきたものも景観とするならばその範囲はさらに広がることとなろう。まずは民俗学の立場からこの景観をどのように理解できるのかが重要な課題となる。また「景観」という語を用いるとき、そこには単なる姿、形だけではなく、それと関わる人々の経験やそれによって付加されたイメージが込められることになる。主体によって異なる景観の意味をどうとらえるのかも議論すべき重要な課題である。

景観は不変ではなく時間軸をもった存在である。景観は歴史のなかで絶えず変化を遂げながら、さまざまな意味を付加されてわれわれの眼前にある。7月30日に滋賀県立琵琶湖博物館で開催されたプレシンポジウムでは文化的景観をキーワードとして議論がおこなわれたが、近年文化財保護の枠組みに組み込まれた文化的景観のように制度的な景観を固定化させそれにイメージを与えていく営みはこれまでにも存在したし、今後その度合いはますます高まることが予想される。民俗学の立場からはこれらの営みに、どのように対峙するのかあるいはしないのかも重要であろう。民俗学自体が景観に作用する可能性すら今後は考えられるのである。

シンポジウムでは民俗学・社会学・歴史学の立場からそれぞれ景観にかかわる具体的な問題提起をしていただき、それに対して民俗学・地理学の立場からコメントを加えていただいた上で、会場からの意見も交えながら、民俗学がいかに「景観」にアプローチできるのかを議論したい。



日本民俗学会第63回年会実行委員会